2012年5月23日水曜日

シルクロード

 バスは赤い平原を走り続ける。ときおり、土で固めた塀の中に、何戸かが身を寄せ合うようにして建っている集落を見ることがあった。壁も、屋根も、すべてのものが、この赤茶けた平原の中で、目立つのを恐れるかのように土と同じ色をしていた。
 二時間後にシルクロードの難所のひとつとして知られるカイバル峠を越える。やがてパキスタン側の国境事務所に着き、出国の手続きを済ませ、そのすぐ向こうにあるアフガニスタンの事務所で、今度は入国の手続きをする。


沢木耕太郎著「深夜特急4 シルクロード」新潮文庫50頁より




この文章が書かれたのは、作品の他の部分で現地の人から「お前は何歳だ」と問われ、もうすぐ27歳になると作者が応えているので、1947年11月生まれの作者だから、1973年(昭和48年)に書かれた文章だと思われる、
氏の著作、深夜特急シリーズはこれ以外にも幾つかあるのだが、シルクロードという名前に関心があり、これだけを読んでみた、

まだ行ったことはないのだが、アジアと中東、ヨーロッパを結ぶ長い長い道のこと、道々にある国々のこと、民族や部族、言語、風俗、習慣、少女の顔、食物、ホテル、同行することになったヨーロッパ各国から来たヒッピーたちのこと、
パキスタンからアフガニスタン、イランを経てヨーロッパに抜ける個人バスがあるのだとか、バスとは名ばかりの老朽化したいつ停まるかもしれないおんぼろバスに13カ国から集まった若者ばかり20数名が乗り込み、一時の旅を同行する、

詳しいことは本編を読んでいただくことにして、ぼくが注目したのは、文中の「カイバル峠」という地名、、

地元から一つ隣の駅「下赤塚駅」に、たまに寄るカレー屋があった、
店主は、インド系の顔立ちをしていて、と書きながら、実際のところぼくにはインド人なのかバングラデシュ人なのかアフガニスタン人なのか認知はできないのだが、本場風のカレーを食べさせてくれる店だった、
チキンカレー、グリーンカレー、挽肉のカレー、3品を全部付けて貰うとサラダ、飲み物、ナン食べ放題で1480円、一種類だけのカレーなら680円と値段も手が届く範囲の値段、
なんといってもナンが(洒落になっているけど、そんなつもりじゃないから)食べ放題というのが魅力的で月に一回は行きたくなる店だった、

しかも、ナンの大きさが尋常の大きさではない、ふざけるなっと叫びたくなるような大きさだった、
二人掛けのテーブルを挟み込むようにして家人と二人で差し向かいになると、その二人の間に埋め尽くす大きさで焼きたてナンが配膳されてくる、
余りにも巨大なそのナンに、二人顔を見合わせて大笑いした、

人は普通でない驚きに遭遇すると驚くよりも笑ってしまうものだと、このときにもまた、確認した

何回か通ううちに、店主と話す機会があった、
店内には現地の音楽が常時流れ、店に据えてあるテレビには、ビデオなのだろうか、現地の音楽番組(ダンスが8割という音楽番組だったのだが)がいつも放映されている、そんな店の隅で、店主が自身の出身を、おれはカイバル族出身だと、語った、

カイバル族がどういう族なのか、どこにあるのか、ぼくには理解できなかったのだが、カイバルという族の名前と、それを語った時の誇らしげな顔を胸の裡に刻んだ、
戦いが強く古くにはインドとも戦ったことがあると、店主が遠い彼方を見るような目をして視線を宙に泳がせた、その時の顔を、、

今わかった、店主は、インド人でなくてパキスタン人だったということ、
常食のナンは、ヌンともいい、同じものをインドではチャパティと呼ぶことなどを、、


本をなぜ読むか?
読むことが好きだから読む、ただそれだけのこと、

ためになるからとか教養が身につくからとか、自己能力の開発に貢献するだとか、そのような高尚な理屈を付けると、愉しさが失せていくかのようだ、

楽しむために読む本だけれど、今までわからなくて胸のどこかでうじうじとしていたものが、ある時、眼にした一冊の本のおかげで、さーっと霧が晴れたように溶けていくことがある、

深夜特急4は、ぼくにとってそのような本の中の一冊だった、、、









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